自彊術は「呼吸運動」「全身の体操」「按摩手技」によって組み立てられており、心身ストレス解消、自律神経失調症、成人病に効果のある万病克服の運動療法として昔から知られています。自動、他動で全身を、多少の圧を加えて動かすことによって、自らの心身の調節を図る体術です。
第1動〜第31動までの各論
31の動作は通常、順序を変えたり、どれひとつとして省いたりすること無く行わなくてはなりません。
なぜなら、第1動は第2動のための準備体操、第2動は第3動の準備体操というように、それぞれが繋がっているからです。また人体の部分で言えば、人体の中心であるお腹から始まり、胸→肩→背中→首と、第12動までで上半身を整え、次いで15動までで、腰、第16動から第20動までは脊柱を矯正する動作です。第21動からは下肢の調整となりますが、下肢だけを鍛えようとすると上半身からの負担が多くなり、かえって下肢を壊してしまう恐れがあるので、その前に上半身の調整をする必要があるのです。第21動から第23動は、下肢に負担の軽い準備体操で、その後に第24動から第26動のハードな動作へ移ります。第30動のでんぐり返しは、やり方を間違えると頚椎をいためてしまう可能性があります。全ての部分が整ってからでないと絶対にしてはいけないのです。
連続しており、どれひとつ抜かしてもその効果を挙げる事はできません。
なお、31動作の型の説明は、「自彊術とは『自彊術の31動作』」のページをご覧ください。
以下では、『自彊術の医学』等より31動各々の効用を抜粋して紹介します。
- 参考文献
- 近藤芳朗著 『自彊術の医学』自彊術の実際と食養生(PDFファイル)
第1動・呼吸運動
- 呼吸法を繰り返すことにより、自律神経が整い、肺、心臓、胃腸が強くなります。
- 下腹を揉み解す効果があるため、胃腸下垂の予防、慢性胃腸炎、便秘、痔、尿失禁にも有効です。
- 肩を上下させることにより、肩のマッサージ効果、高血圧の降下、腹部の贅肉の引き締め効果もあります。
第2動・肋骨を抱えて肩を上下する
- 手の平を胸部に当てながら肩を上下することによって胸郭が広がり、内臓をマッサージするような効果があります。
- 消化器内臓の伸縮だけでなく、肝胆の血流を増加させるため、慢性肝胆疾患、消化器疾患、膵臓疾患、精神安定に有効です。
第3動・両肱を一文字に開き、胸郭を広げる
- 両腕の開閉を繰り返すことで胸郭、背中の筋肉、筋膜などのこわばりをほぐし、肩凝り、背中の痛み、姿勢の矯正に有効です。
- また四十肩、五十肩もこの動作を続けることで肩甲骨関節の硬直が柔らかくなり、動かしやすくなります。
第4動・両手を後ろで組み合わせ肩を上げ下げする
- 僧帽筋をゆるめ、この状態で肩を上下することで背中の筋肉をマッサージする効果がうまれます。
- 肩凝り、背中の痛み、姿勢の矯正、精神安定に有効です。
第5動・胸郭を広げる
- 肘を引いて身体をねじることにより肩甲骨のまわりの筋肉を伸ばし、また押すことで胸腹筋を横と斜めに伸縮するので、背中、胸、わき腹にマッサージ効果があります。
- 四十肩、五十肩の予防軽減、肩こり、背中の痛み、ストレスの緩和に有効です。
第6動・頭を左右の真横に振る
- 第6動~第8動までは、頭を振る首の運動です。7つの頚椎を真横、上下、前後に動かします。めまい、偏頭痛、歯痛に有効です。
第7動・頭を上下に振る
- 後頭部から後頚部にかけての筋肉を伸ばす動作で、脳溢血、脳貧血、不眠、自律神経失調症、神経衰弱の予防に有効です。
第8動・頭を左右に回す
- 第6動から第8動までの3つの動作には、マッサージ効果がありデスクワークで同じ姿勢を続けることの多い人、風邪による熱で後頭部や首、肩が痛む人が行うと楽になります。自律神経失調症、不眠症に有効であり、また耳を健全にする効果があります。
第9〜11動・首すじを叩く
- 第9動は、内分泌腺と副交感神経の活性化を促し、新陳代謝を活発にします。また新陳代謝をコントロールする甲状腺や唾液腺を刺激するので歯槽膿漏の解消や老化防止にも効果があります。
- 第10動は、後頭部や首、肩の痛みに効果があるだけでなく、メニエール氏病、頚椎動脈循環不全症の改善が期待できます。また、高血圧、頭痛、顔面神経痛、めまい、耳鳴り、に有効です。
- 第11動は、頭、目、鼻にかかわる全ての病気(頭痛、歯痛、鼻炎、耳鳴り、老眼、近眼、蓄膿症など)に効果があります。
第12動・目の体操
- 目のまわりには、多くの神経と、全身にかかわる重要なツボが集っており、特に眼球には血圧や心拍数を調整する副交感神経の反射中枢があり、第12動は高血圧や心臓疾患、老眼、近眼、精神安定に有効です。
第13〜15動・腰の前後屈伸
- 第13動は、下半身の裏側の筋肉、背中や腰の筋肉をストレッチする動作です。腰痛、ヒザ痛に有効です。
- 第14動は、腹筋を強化する動作で、骨折や脱関節の予防、全身の強化に有効です。
- 第15動は、脊柱と腰椎の矯正を目的とし、腹筋、背筋、腰筋の強化、腸管、肝臓、膀胱、生殖器の活性化に有効です。
第16〜20動・上肢の六方振り
- 第16動は、筋肉をリラックスさせ、ソフトに脊柱を矯正し、また肩関節を動かすことで血行を促進して、上腕の筋肉をほぐします。脊柱彎曲症、高血圧症、内臓下垂、肩こりに有効です。
- 第17動は、肩関節のまわりの筋肉を柔らかくする動作で、肩こり、四十肩、五十腕に効果があります。。
- 第18動は、肩関節と上半身の筋肉をストレッチし、肩の動きをスムーズにさせます。両手をそろえてまわせない場合は、脊髄神経の異常があると考えられますが、この動作によってその異常を和らげることができます。
- 第19動は、脊柱や腰椎まわりの筋肉群を伸ばしてやわらかくし、機敏性をつけます。
- 第20動は、脊椎・腰椎の矯正のほかに、上腕の神経痛や筋肉痛にも効果があります。
第21動・両手で両足の爪先を掴み、腰を上下する
- 手の先から足の先まで身体全体をストレッチし、身体全部の筋肉を平均に伸ばしてくれます。
- 足をポンプにして血液を頭部に送り込み、頭や身体の疲労を除いてくれるのでデスクワークでの疲労、偏頭痛、蓄膿症、ヒザの痛みに有効です。
第22動・足を一歩半ふみだして腰をひねり、上体を後屈する
- 第21動で頭部に送り込まれた血液を一気に内臓部へ戻す体操で、首、胸、お腹、下肢の前面をストレッチします。
- 頭や身体の疲労、脊椎・腰椎の異常に有効です。
第23動・直立して上体を左右に曲げる
- 身体の両側面をストレッチし、腰痛、姿勢の矯正、全身のリラックスに効果があります。
第24動・両足を揃えて直立し、踵を畳につけて極度に屈む
- スクワットをしてすぐ立ち上がるというシンプルな動作ですが、自分の体重をおもりとして股関節、膝関節、足首を強化します。
- 腰痛、神経の疲労と緊張の緩和にも有効です。
第25動・両足を開いて中腰にしゃがむと同時に、両手を目の高さに突き出す
- 股関節、膝関節の可動範囲を広げる動作で、足腰の強化、肥満、姿勢の矯正に効果があります。
第26動・両足を左右に極度に開く
- 股関節を十分に広げることにより、骨盤の位置を正常に戻し、足の長さのひずみを矯正します。
- 内臓の位置が整うので、内臓下垂の改善、肥満の解消、特に女性の場合、子宮の前屈、後屈が矯正され、また、生理痛、生理不順の改善にも有効です。
第27動・相撲のシコのように腰を落とす
- 背骨の湾曲を矯正し、股関節、胸、肩の筋肉を伸ばします。
- 肩こり、背中痛、肥満、骨粗鬆症の予防に効果があります。
第28動・直立して両腕を振り、上体を左右にひねる
- 横腹の筋肉を斜めに伸ばすことによって柔軟性を高め、腰を強くする動作です。
- 腸の蠕動運動を促進して便秘の解消に繋がります。
第29動・両膝を折り、腰を踵の間に落とし仰向けに寝て、両膝頭を一斉に上下して腹筋を伸ばす
- 全身の筋肉を伸ばし、特に腹筋を引き伸ばして強化します。
- 内臓諸器官の下垂を治して全身の血行をよくし、精神安定、入眠不全に有効です。
第30動・全身を回転する
- 背骨に両足の重さをかけて脊柱を刺激する動作で、血液の循環がよくなり心身を爽快にします。腰椎、脊椎、頚椎に自らの体重で圧を加えるのでマッサージ効果が得られます。
- 首筋の筋肉を強くするので、甲状腺を刺激し、体重減少にも繋がります。
- 腹筋を丈夫にし、内臓諸器官にもマッサージ効果があります。
第31動・両足を揃えてつま先立ち、かかとを打つ
- 脊椎骨のズレを整え、かかとの上げ下げによってヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)を収縮・弛緩させ、脳への血流を増大させます。
- 第31動で全身の歪みを調整します。
自彊術と他の健康法の違い
- ①独特の呼吸法(号令とハズミ)。気功(導引)という呼吸に合わせて体を動かす呼吸法「吐納法)が最重要視される。
- ②全身性・系統的・極限まで屈伸する31動作。31動作でひとつの体操なので、1動作だけとりあげても、健康の保持増進にはあまり意味がなく、逆効果のことさえある。詳細は「第1動〜第31動までの各論」参照。
- ③全動作15分間の消費エネルギーが少ないので、病弱者にもできる。
- ④マッサージや指圧等の手技療法を教程中にもっている。
臨床家による自彊術の医療効果の実験
- 自彊術体操による心拍数の変化
- 人間の生活行動
- 運動療法の効用
- 自彊術と国民の健康づくり
- 自律神経系の研究
- 怪我と自彊術体操
- 慢性腎臓病の運動療法